あたためて

【配布元:Abandon

 

しばらく顔を合わせていない愛しい人に早く逢いたくて、急いで帰路に着いている時だった。


最初はポツリポツリと。

「気のせいかな?」

程度のものが、一瞬にして強くなる。
夏にはよくある、通り雨だ。


今日はルルーシュの家で夕飯の約束があるからと、仕事を早く終わらせて来たのに。
どうしてこんな時に限って雨なんか降るんだろう。
しかも、土砂降り。

けれど、雨宿りなどしている暇ではない。
早く彼に会いたくて。
学生カバンで雨を防ぎ、僕は僕の出しうる力のすべてを出して全速力で走りぬけた。




「はぁ…はぁ…」

両膝を手に身体を支え、荒く息を繰り返す。
やっとのことで、彼らの住まうクラブハウスへたどり着いた。
急いで呼び鈴を鳴らすと、ルルーシュが出てきてくれた。
その表情は一変して、驚き目を見開く。

「なんだ遅かったな。って…お前!ずぶ濡れじゃないかっ!傘は差さなかったのか?!」
「いや…その…遅れそうでそれどころじゃなかったから…つい…;」

案の定彼は僕を一目見て声を荒げた。
そんな彼に僕は「てへ」なんておどけて見せる。

「はぁ…とにかく…お前このままシャワー浴びて来い。いいな?」
「えっでも…」
「返事は?」
「はっはい!」

いつまでもおどおどしている僕に彼は半ば強制的に命令をする。
僕はというと、そんな彼の目に射殺されそうで、勢いよく返事をした。

それから彼にタオルを貰い大雑把に拭いてから浴室に向かう。
なんだか新婚さんみたいで楽しいななんて思いながら。







****







僕がシャワーから出てから、待っていてくれたルルーシュとナナリーの3人で夕飯を食べた後。
「泊まっていけ」
と言われ、「お言葉に甘えて」といつものように話は進み。

現在僕は、ルルーシュの部屋のベットに腰をかけている。


「・・・・・・・・」

彼はさっきからずっと僕の隣で本を読んでいた。
なんだか難しい本のようで、僕がちらりと覗いてみてもさっぱり内容が分からない。
こんなの読んで楽しいのだろうか?
だいたい、隣に僕が居るのに蔑ろにするなって…

「ねぇ…ルルーシュ」

「ん?」

返事はしても目線はそのまま文字を追っている。

「・・・・・・」

「どうした?」

無言だった僕に不振に感じても目線をはずさない。
そんな彼に多少苛付いた僕は、彼に抱きついた。


「ルルーシュのバカ~~!!」

ぎゅっ

「・・・ほぁ?!」

彼は本当に驚いたのか声が裏返ってしまっていた。
しきりにわたわたし、僕の両腕に手を掛け外そうとする。

「どっどうしたんだいきなり!」

「どうしたもこうしたもないよっ…僕一人だけにして…寂しいじゃないかっ」

半分泣きそうな拗ねた声で主張してみる。
だって、本当に。
なんだか一人取り残されたみたいで寂しかったんだ。
せっかく彼と長くいたくて早く来てみても、相手がこれじゃぁイチャイチャどころか、話すらまともに出来ない。

「?隣にいただろう?」

「いや。うん。そうじゃなくてね?」

「何が不満なんだ」

「強いて言えば、君の鈍感なところかな?」

「っ俺はお前よりも頭は切れるはずだ!鈍感などありえん」

「普通は。でしょ?でも色恋沙汰には疎すぎだよ…」

そう言って彼の口に自分のそれを重ねる。
軽く「落ち着いて?」とでも言うように。


予想通り、彼はきょとんとして目を見開いていた。
彼の手から握力を感じなくなるくらいに放心している。

「僕が傍にいるときぐらい、僕のこと見て?」

尚も口をパクパクとさせてこちらを見ているルルーシュ。
こんなことで驚かなくてもいいのに。
いつもはこれよりも凄いこと、僕らはしているというのに。
ホント可愛いよね。
天然だし。
ツンデレだし。
プライドはすっごく高いくせに妙なところで詰めが甘いへたれで、でも自分の大切なものには必死なところとか、黒猫みたいに気まぐれなところとか…
数え上げ切れないほどに僕は彼が愛しい。

本人にはどれぐらい伝わってるか分からないけれど、彼の傍にいればココロがあったかくなる。
だから、プライベートの時には僕のココロをあたためて?

「大好きだから僕のことでいっぱいになって?」

「はっ恥ずかしいことをいうなっ」







 



::::::::::08/07/20(日)夜UP::::::::::