いと

 

 

この糸の先は 君に 続いていると思っていた。



でも、違っていたんだね。



それでも僕は、この糸を 離せないでいるんだ。


いつか 君が、この糸を 握ってくれることを期待して。




そして、いつか 君に また逢えることを期待して・・・















(あれ…なんだろ…これ…)

朝、起きて気が付くと目の前が歪んで見えた。

それが、自分の涙だということに気付くのに少し時間がかかった。



目尻に、頬に、流れ落ちる涙の粒。
それは、自覚した今でさえ止ることを知らずに流れ続ける。

はらはらと。



自分は…何か…大事な夢を見ていた気がする。
とても大事で 大切で 愛しい時間の夢。
そして、悲しい夢。

けれど、夢の内容は思い出すことが出来ない。





 手のひらで前髪を書き上げ、天井を見上げて、このスッキリしない心地をやり過ごす。
別に今日だけが特別ではない。
こんなことは日常茶飯事なことで。


それでも、慣れることはなく

毎回苦しみ、そして、どこからともなく愛しさがこみ上げてくる。



嗚呼…何故、顔も名前も思い出せない"架空"の人を、こんなにも愛しく思ってしまえるのだろうか…。

嗚呼…何故、こんなにも愛しいのに、自分は思い出すことが出来ないのだろうか…



(それは、過去の過ちからか…)



頭の隅で、そんな呟きが聞こえる。
けれど、それには聞こえない振りをして、蓋を閉じた。







結局、どんなに大切な存在だろうが、自分は、自分が好きなのだ。






そう、呟いたと同時に、寝室の窓から優しげな風が体を包み込んだ。

それが、何なのかわからないけれど、自然に「ありがとう」と声に出せたんだ。




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