もう少し、手を伸ばせば。

 

 

今の季節の夕暮れ時は少し肌寒い。
薄着で外に出れば風邪を引きそうな冷たい風が肌を掠める。


今日、上司に告げられた、死刑宣告にも似た解雇通知。
今月いっぱいらしいのだがそれもあと2週間だ。
時間があるようでとても少ない。
自分はこれからだと思っていた分ショックも大きかった。
今日の帰宅でさえ気力だけで乗り越え気が付けば、人通りがなくなった頃合に見えた公園のブランコに座っていた。

 

これから家に帰り家族になんて話そう。
どう切り出そう。
そればかり、頭を埋め尽くす。
それと同時に、あの子達の進学の費用やら家賃生活費・・・。
考えたらキリがないくらいの問題が山積だ。


「くそっ…」


両手で頭を抱えて小さな声でそう吐き捨てた。


キィ

 

小さく、けれど静かな公園に十分なほど寂しげに響いた。

 

 

 

*   *

 

 


「それでさスザク!!凄いんだって!」
「はいはい。その話何回目?」
「へ?!」
「だって、ジノ。朝からずっと同じ人のことばかり話してるよ?頭大丈夫?^^」
「酷いぃぃ!!・・・・」

そんな他愛ない会話をしながら岐路をたどっていた時。
ふとジノの目線と足が止まった。


「どうしたのジノ。急に黙って・・・」


気になってジノが見ているほうへ顔を向けてみると、高校時代に一緒のクラスで、今は同じ会社の同期のルルーシュがブランコに座っていた。
こんな時間にどうしたんだろうかと目を凝らして改めて見ると、どうも様子がおかしかった。
どうおかしいと聞かれれば答え辛いが。

そして、ジノのほうを見ると、彼は既に隣には居なくなっていた。

代わりに、鞄が一つ。


そして、もう一回公園に顔をずらした。
そこには、ジノがルルーシュを抱きしめているところだった。


(え・・・?)


何だろう凄く気分が悪くなった。
胸を掻き毟りたくて仕方なくて、上手く呼吸が出来ない。


(あれ?)


僕は彼のことを"同じクラスメイト"としか見ていなかったはずで。
この感情はおかしくて。
本来持っていないはずのもので。


「っ・・・・!」


僕は咄嗟にその場を逃げるように走って自分のアパートを目指した。


嫌だ。
嫌だ。
嫌だ。
嫌だ。

 


(彼を取られるのが凄く嫌だっ!!)

 

部屋についてすぐに、扉が閉まると同時に膝から崩れ落ちた。
こんな感情知りたくなかった。
友達のままが良かった。
二人に、明日からどんな顔をして会えばいいというのだろう・・・。

 


 <<Novel top  Home>>