君には関係ないこと。







『菊は菊のままでいいんだよ』




 そう笑って言った言葉。
それを聴いた時の君は、何か府に落ちない顔をしていたね。
けれど一生懸命笑って見せて俺に『分かりました』ってだけ言ったんだ。
俺がどういう思いであの言葉を言ったのかを知らずに。
 君は俺の事をどういう風にイメージしているか知らないけれど。
俺だって皆が思うような"楽天家"な性格を否定はしないけれど、暗い気持ちを持つ時だってある。
それが"嫉妬"なのかただの"独占欲"なのかは分からない。
 気付いていないだろうけれど、君は、君が思っているよりも凄く魅力があるんだ。
だから、君の周りには餌を見つけたアリのようにうじゃうじゃと人が寄り付く。
そいつらを追い払っている。
そのことを君に内緒でしているのは、きっとこんなことをしていると知ったら、君が悲しむだろうと分かっているから。
君は僕が感心するほどお人よしで、見ているこっちがハラハラさせられてばかりで。
けれど、そういうことも含めて、俺は君が好きだから。誰にも渡せない。渡さない。


本当の俺は、とても心が狭いんだ。





 「ねぇ?君は何処の誰?何のためにこんな影で見てたの?」

菊達と演習している時、ふいに感じた視線に気が付いて、二人には適当に理由をつけて茂みに覗きながらニコニコ笑う。
男は冷や汗をかきながら挙動不審に騒ぎ出した。
その行動に、菊達に知られるのを恐れた俺は、男の口を自分の手で塞いだ。

「~~~~~~~!!~~~~~!!」

塞がれていても何か言いた気に呻いている相手に笑みを濃くする。

「しぃー。皆に気付かれるでしょ?それとも、死にたい?」
「ーーーーーーーっ!」

笑顔のまま男を見詰める。そしてその距離をどんどん縮めていく。
男から見れば、相手の顔は逆光の所為で朧気になり、恐怖感をいっそう煽る。

ガタガタ ブルブル

身体が小刻みに震えだして止まらない。








「フェリくーーん!休憩がてらお茶にしましょー!」



遠くから菊の呼び声が響く。
それに手を振って答えて、男の方に向き直ると笑顔のままに胸倉を掴んだ。

「何が目的だったのか知らないけど、今度やったら産まれて来た事を後悔させてあげるね」

そう耳元で言って男を投げ捨てると、早足で菊達の居る小屋の方へ向かった。






(誰にも 菊は 渡さない)(それがたとえ親しい人でも)

 

---------------11/05/07(00:32)