きみのための…

軽い設定

 

 

人通りの盛んな道に建つそれは、7階ほどある何処にでもある普通のマンションだ。
その1階にあるコンビニで俺はアルバイトとして働いている。
毎日大学が終わったらすぐにバイトへ向かう。終わるのは大体5時か6時頃。
家に帰れば家事をこなし(母は家事を俺に任せきりだ。)ロロとナナリーと話をして眠りに付く。

日々はそのくり返しだった。



あいつに会うまで。

 

 

****

 

 

「先パ~イw」

がばっ


移動教室のために中庭を歩いている時に突然背中に体重を感じた。
誰と言われなくても声で分かってしまったそいつはジノ。

「おい!こら離れろっ!」

周りを見ると少数ではあるが視線を感じ、声を荒げる。
こんなのとは日常的なことではあるが、やはり人前では恥ずかしいのでやめて欲しい。

「え~~?!いいじゃんwへるもんじゃなし♪これは一種の愛情表現なんだって♪」

「いらん」

「ひどいっ!」

こんなやりとりもいつもと同じ。
自分の顔が自然と綻ぶのが分かった。それを後ろから除き見た彼も『えへへ』と笑った。
こうしてジノと親しくなった切っ掛けは1ヶ月前。
コンビニでバイトをしている時だった。

 

 

****

 

 

ふぅ、と溜息を一つ吐くと、今まで張り詰めていたものが楽になる。
今日は運が悪く運搬物を店内に運ぶ役をさせられていた。いつもは他の奴がしているのだが、今日のシフト表には俺の名前しかなかったため仕方なくだ。

最後の箱を取りに行こうと外に出ると、そこにはなんとも面倒なことにゴミ箱を背にうずくまる男がひとり。
凄く面倒くさい気持ちを押し殺して声をかけようと近づくと、そいつはどうやら寝ているらしく俺には気づかない。こんなところで寝られては営業妨害だと判断した俺は、ちっと舌打ちをして、近くにいた運送屋の人に手を借りて取り敢えず事務室に運んでもらった。


****


(あれ…ここどこだろう…?)
白くぼやけた視界に映るのは見慣れない天井と小さな机と積まれた段ボール箱。
自分が何故ここにいるのか思い出せない。確か学校が終わってから友人とゲーセンに行って…。その後は友人とは別れて家路についていて…。
(あ……)
そういえば、と思い出したのは腹の虫がなったから。そうだ、俺は昨日の徹夜と今日の昼が少なかったせいで酷くお腹を空かせていたのだった。
思い出したら余計に空いてきて切ない気持ちになる。
ううっ唸ってベットから身を起こし、改めてここがどこかを探る。どうやらどこかの控室か仮眠室みたいなところ?耳を澄ますと外から微かに人の声がするなと、この部屋の唯一のドアのノブに手をかけ回すと、何やら見たことのある風景が広がった。あ、ここ知ってると思った瞬間室内にかかった曲でここが自分の行きつけのコンビニだと確信した。ただ、いつもと違うのは今、オレが立っている場所は店員が立つレジに通じるドアの前で。いつも見る風景と違うんだなーとまだ眠りかかった頭で思っていると、そこに立って忙しなく働く店員と目が合った。一瞬ほっとしたような目をした後、オレの方へ近づいてきた。

「やっと起きたか。身体の調子はどうだ帰れそうか?というかお前はあんなところで何をやっていたんだ店先で迷惑だ。名前と年齢は?」
「ちょっ…いっぺんに聞き過ぎっ順番に…!」
「あっ嗚呼、そうか…悪い。では初めに名前を教えてもらおうか」

矢継ぎ早に聞かれ戸惑ったオレはとっさに両手を振って抗議した。そして、やはり忙しかったその人に、シフト交代まで待てと言われてしまい、また事務所だったそこに押し込まれた。腹が空いたと言ったら処分にまわす食料品をカゴごと渡してくれたことに言葉はキツイけれども優しい人なんだと思った。