僕が幼かった頃。
かっちゃんの背中を何処までも追いかけた。
ウザがられても、怒鳴られても、それでもついて行った。
心のどこかで、かっちゃんは言葉では否定するけれど、そこまで嫌われていないように感じていたのかもしれない。もしかしたら自分に都合のいいように解釈していただけかもしれないけどれど、かっちゃんは僕にとって憧れの存在で、尊敬する幼馴染で、大切な人だ。
そんなかっちゃんが雄英に行くと知った時迷わず付いていこうとしたのだ。本人にはウゼェキメェ言われたのだが。
そして、なんやかんやあって無事入学も出来、友人も出来、クラスの仲間と打ち解けてきた頃にはかっちゃんからの風当たりもやわらぎ、これからもう少し仲良く出来るのかなと期待していた矢先に、かっちゃんが女の子に告白されている場面に遭遇してしまった。
どうしよう。
変に動いて音を立てちゃって気付かれたくないし、この道しか目的の場所には行けないし…それにしても、ぱっと見ただけだったけど可愛かったな…何科の子だろ。
かっちゃんってどんな子が好きなのかな?ああいう性格だしきっとほんわかした癒し系が好きそうだよね。いいなあ僕にはそんな経験全くと言って無いんだよな…。一度は呼び出されるの憧れるよな……はぁあ……僕何してんだろ………早く行かないと学食のメニュー少なくなっちゃう…
「「オラァ!!何立ち聞きしてんだクソナード!!!」
「はひぃぃぃ!!!」
(びっくりした!びっくりした!びっくりした!びっくりした!!!!!えっ???何でバレたの???あれ???)
そう思ってかっちゃんの方を見たら。そこには不機嫌丸出しの吊り上がった三白眼に燃えるような紅い瞳があって。僕は何故だか咄嗟に目をそらした。
「声に出とんだ!!気づけや!!!」
(あっ!そういうことでしたか!あー……っと僕生きてられるのかな……)
そんな風に自嘲していると、苛ついた紅い目がすぐに違う方へ向くのを感じた。そのまま横切ろうとした彼に、何となくそのままだといけない気がして腕を掴んでしまった。
「あっ…えっと………さっきの子と…付き合うの?」
自分でも分かるくらいおどおどしながら聞くと、どうでもいい事のように、でも少し口を尖らせて
「な分けねえだろ。めんどくせぇ……つうか、てめえには関係ねぇだろ!」
なんて言うんだけど、言葉と行動が合ってなくて、いつも鈍感と言われる自分にでも分かるほどにおかしな態度だった。
そしてその返事に何故かホッとしている自分もいて、この訳が分からない感情に少し動揺する。
「は な せ。いつまでも握ってんな…」
「ああわわっ!ごっごごごめん!かっちゃん!!」
ふんっと鼻をならして今度こそ廊下を歩いて行ってしまった。その後ろ姿をなんとなく腑に落ちずに暫く見送ると、思い出したように自分も学食へ急ぐのだった。
***
「んーーーー……」
先ほどかっちゃんと別れてからといううものモヤモヤしてしょうがない。僕はどうしてしまったんだろう。
自分には心当たりが無いので何が何やらで、せっかく頼んだ食事も箸が進まない。
お腹が空いてるだけには思えなかった。
「デクくんどうしたの?浮かない顔やね?」
「緑谷くんが考え事をしているのは今に始まった事ではないが、何か悩み事が有るなら相談にのろう!」
そう言って、僕の座っていたテーブルに近づいてきたのは、学食のトレーを持った麗日さんと飯田くん。
その顔は本当に心配していて、少し申し訳なくなる。
「だだっ大丈夫だよっ……(ちょっと自分でもよく分からないから何て言ったらわからないし…)いつもありがとう…」
にこっと笑って見せたけど上手く笑えてたかな?
そんな僕に、これ以上聞き出せないと感じたのか、そこからは普段通りの会話と空気に包まれた。
***
「チッ…………………」
何故か知らないがさっきからムカムカして仕方ない。
(どっかのバカに聞かれてたとして何だってんだ。アイツに関係ねぇのはホントだろうが。)
だけど勝己のイライラはますばかりで、出久に苛立っているのか、それ以前に呼び出してきた女子に苛立っているのか。そもそも自分が何故ここまで考えなければいけないのかと、そんなことまで苛立ってしまい何処にぶつけたらいいのか分からないまま時間だけが過ぎていく。
食堂に来ているのに食事を頼むのすら忘れるぐらいにムカついている勝己。
イライラし過ぎて。
何かスカッと出来る事をしたい。
自分では分からない感情に苛立ちや戸惑いでごちゃ混ぜになって訳が分からない。
自分はどうされたかったんだろう。相手のどういう反応だったら良かったのだろうか。考えても考えても思い付かない衝動を胸に、近場にあった机を蹴って発散させようとするがちっともスカッとしない。それどころか虚しさまで感じる。
「おーバクゴー!荒れてんなー?」
オイッス!と切島と隣にいた上鳴が声を掛けてきた。
こいつらとも何だかんだつるむようになったななんて思いながらも、そんな余裕はないと睨み返す。
「うっせ」
そう言って視線を逸らすと、そんな事はお構いなしに目の前の席に座ってニヤニヤしている。
どうしたものかと溜息をつくと、切島がそういえばさっき緑谷が〜と話し出し、思わず振り向いてしまった。切島は、え?なに?何かやばい事言ったっけ?と冷や汗を垂らす。
少しばつが悪くなり頬杖をついて顔をそらす。
「なんでもねぇ…」
自分の感情を知られらくなくて悟られぬように無言になる。
そんな勝己に二人ははてなマークを頭上に浮かべ、それでも少しおバカな上鳴がしゃべり続けている。
「なんか緑谷も変だったんだよなー。どっか上の空っていうか…あれ?朝は普通だったよな??」
「しらねぇよ!俺に聞くんじゃねぇ!!」
これは何を言っても噛みつかれるだけだなぁと、二人は諦め出久の話をするのを辞め、勝己の座る机に食事トレイが無いことに気づき、自らパシられる為指摘するのだった。